[entropy 2]  エントロピーって何?、その2


八木澤秀記 高千穂大学 理学博士
物理学から見るエネルギー問題・環境問題について研究している。自宅の軽井沢では農業を営み、自然との調和したライフスタイルの実践をしている

 
前回、アインシュタインの言葉の引用で「熱力学こそは物理学の第一の原理である」と書いたが、正確には「エントロピーは全ての科学にとって第一の原理である」(竹内均 訳)でした。 訂正します。

前回は物質の一方的劣化がリサイクル運動に警鐘を鳴らしているという意のことを書いた。 この話を進める前にエントロピーのもう一つの劣化、即ちエネルギーの劣化を言わなければならない。
エネルギー保存の法則は専門外の人達にも広く知られている。 保存されるということは、それがいつでも役立つということではない。
 
車を例にとってみよう。 ガソリンを燃焼させてエンジンを働かせて、その燃焼エネルギーを車輪の回転エネルギーに変えるの自動車である。 ラジエーターでエンジンを冷却する時に熱が空気中に放出される。 走行中にタイヤと路面は摩擦で熱を発生する。 車体は風を切って進むから空気との衝突、摩擦でここでも熱を発生する。 エンジン音やクラクションは空気を振動させて、最終的に空気の温度を上げて終わる。 どれもこれも熱を発生してしまう。 寒い時期に冷却の熱を一部暖房に使う他は、どれもこれも役に立たない熱ばかり。 この熱の発生は防げない。 それどころか、熱の発生が無ければ車は走らない。 車輪と路面の摩擦があるから車は前に進むのであって、摩擦を減らしたらスリップして進まない。 ではエンジンを冷やすのは何故か。 エンジンは高温側と低温側の二つの世界がないと動かない、というのが熱力学の法則なのである。 低温が維持出来なくなった状態がオーバーヒート。
これらの熱と走行中の車のエネルギーを合計すれば確かにエネルギーは保存している。 

このことから、燃焼エネルギーの一部が走行に使われているだけで、残りは熱となって外界に発散してしまうことが解る。 だから効率は絶対に100%にならない。 この熱エネルギーは新たなエネルギー源にはならない。 理由は二つある。 一つは周囲に発散してしまって集めようがなく、科学技術を駆使して集めることはできても、そのためにそれ以上のエネルギーを消費してしまうこと。 二つ目は、この熱はエネルギー源とするには温度が低く過ぎることである。
だからエネルギーは利用可能な状態から利用不可能な熱へと一方的に劣化することになる。

以上のことから、代替エネルギー、代替エネルギーと無闇に幻想を抱いてはならないことが見えてくる。(続く)


日時 2003-3-21 10:49:12
環境コラム: エントロピーで見る環境問題
この記事が掲載されているURL: http://www.greenproject.net/modules/wfsection/article.php?articleid=21