[entropy 1]  エントロピーって何?


八木澤秀記 高千穂大学 理学博士
物理学から見るエネルギー問題・環境問題について研究している。自宅の軽井沢では農業を営み、自然との調和したライフスタイルの実践をしている


エントロピー。 
この言葉を聞いたことはあるだろうが、それが意味する現象を正しく理解している人は多くは無いだろう。
 
物理学の中に熱力学がある。 その中に出てくる専門用語のことで、ギリシャ語の「変化」あるいは「変換」を意味する。 (情報理論にもこの言葉は使われているが、今後問題にしてゆく熱力学で言うエントロピーとは関係がない。 無理に関係づけようとしている人達はいるが。)

物理の理論は試行錯誤を繰り返しながら発展してきた。 相対性理論の出現が普遍的真理と見られてきたニュートン力学の妥当性を限定された世界に閉じ込めてしまったことはよく知られた例である。 
「エントロピーは全ての科学にとって第一の原理である」と喝破したのはその大天才のアインシュタインだった。 敷衍すれば「熱力学法則は修正することのない普遍的真理である」ということになる。
さて、そのずしりと重い熱力学法則の主たるものが熱力学第二法則(今後はただ第二法則と呼ぶ)で、もう一つの表現はエントロピー増大の法則。 
 
専門外の人の「エントロピー増大の法則って何?」に対して、誰でも解るように答えた人は殆どいない。 「一言では言えない」とか何とかごまかしたり、数式をいきなり書いたりして煙に巻くから、聞く方は内心で「どうでもいいや、もう」となる。

文明評論家として著名な Jeremy Rifkin の答えは単純明解である:

 エントロピー増大の法則とは、「物質およびエネルギーは利用可能な状態から、利用不可能な状態へ一方的に劣化してゆくという法則である」

この「一方的劣化」が今後のキーワードの一つになる。 そう言われてみれば当たり前のことを言っているに過ぎない。 私達が日常使用しているモノはそうなっている。 気に入った服だって大事に着ても気が付いてみたら古びて擦り切れ、外出着にはみすぼらしくなり普段着に格下げとなる。 さらに普段着にも耐えられなくなり、雑巾になったり、ゴミに成り果てる。 私達自身も生れ落ちた初々しい「新品」が新陳代謝で部品を入れ替えたりするにも拘わらず、皺が出て、老化と老醜が進行して死に至る。
どれもこれも一方的劣化であり、その逆は絶対にないと断言できる。不老長寿や若返りといった試みは詐欺の世界の話。
驚くかもしれないが、この当たり前が正しく理解されていない。そのいい例が、「リサイクルは環境に優しいから何でもかんでもリサイクルするべきだ」という誤解。
衣服はリサイクルで元に戻らない。 繊維が切れて短く、細くなる劣化のために強度はなくなり、捨てる直前に一時的に雑巾にされる。
嘗てはリサイクルの優等生と言われた新聞紙とて同じ。何度でも新聞紙として使えるわけではなく、再生の度にセルロースが劣化し、輪転機にかけて使用する強度はなくなって、仕方なくトイレットペーパーな成り下がって捨てられる。
それでも紙をリサイクルしないよりはましではないかという意見は人情としては当然だろう。 が、ことはそう単純ではない。
(続く)



日時 2003-3-21 10:48:05
環境コラム: エントロピーで見る環境問題
この記事が掲載されているURL: http://www.greenproject.net/modules/wfsection/article.php?articleid=20