VOL2.ボランティアが輝ける舞台づくり


ヒロ ヒラタ
エコプチテラス管理人。最近はボランティアが自立してやることがなく、もっぱら回転テーブルでお茶を飲んでいる。エコプチが縁で飼われたモカは、主人より餌をくれるスタッフになついているらしい。

ボランティアとはなにか

2mもの雑草が生い茂る700坪の区画整理事業用地をエコプチテラスとして施工しはじめたとき、無理やり誘った仲間も含めて参加者はたった15名だった。残暑きびしい9月に、ロープを張って設計をし、少しずつ草刈を始めた。草刈やスコップでの開墾をしていると、近所から次々とボランティアがやってきた。これまでずっと同じ町に住んでいたが、ほとんどは顔をあわせてもあいさつする程度の人たちばかりだ。ゴミや草の根がはびこっていた荒地は、機械の力も借りずたった2週間で整地されてしまった。ボランティアパワーのすさまじさを見せつけられると同時に、その可能性を大きく感じとった出来事だった。
ボランティアの根底にあるのは「放っておけない」という人情味であると思う。自己完結型のライフスタイルが定着し、社会に無関心が広がる中で、ボランティア活動は人と地域をもう一度結びなおすきっかけになるかもしれない。
一方で、「ボランティアの自発性は揮発性でもある」と、社会福祉法人大阪ボランティア協会の早瀬昇氏が表現するように、ボランティア・マネジメントには特有の難しさもある。新潟や福井の災害で困っている人を見れば「かわいそう、なんとかしたい」と誰もが思って行動するが、時間が経過すればするほど、それを維持するのが難しくなってくる。
「やりたい」と思ったときがモチベーションのピークで、熱が冷めればやる気もなくなるのである。
この性質は、時に運営者側には困ったことで、目標を達成するための全体的なマネジメントと同時に、個々のボランティアを続けるモチベーションや、疲れたボランティアを癒すケアがなければ、ボランティアを継続的に組織するのはなかなか維持するのは難しい。
自発性を維持する仕掛け

ゴミを拾ったり、草をむしったり、水をやったりと、エコプチのような施設の管理・運営は継続的なものでなければならない。一方でボランティア活動というものはなかなか維持・継続がむずかしい。
「矛盾するふたつの性質をどのように組み合わせればよいか」
エコプチには、ボランティア活動を継続的に行うためにいつくかの仕掛けをしている。
○エコ農園
例えば、エコプチの2/3を占めるエコ農園は、ボランティアが継続的に活動を続けるために設置した場所だ。自分が野菜や花を育てれば、結果として毎日エコプチに足を運ぶことになる。そのときに水遣りや草むしりをしてもらえば、無理なく維持管理はできる。区民農園のニーズは高く、やりたい人はいくらでもいるので、利用条件として「ボランティア活動・エコ活動を積極的にすること」を明記し、環境問題に取り組む一環として、エコ農園を利用してもらっている。利用者のなかには「ただ畑をやりたい」という人もいるが、そういう人は区民農園にいってもらっている。あくまで「エコ活動を継続的にするためのエコ農園」という価値付けが、個人の活動を活性化させると同時に、全体としての意義を生み出している。
○ネームカード
利用者は、全員エコボランティアとして登録し、名前と顔写真入のネームカードを配布している。ネームカードを携帯することで、ボランティアとしての自覚が生まれると同時に、ボランティア同士が名前を覚え、交流を深めやすくなるというメリットがある。
「ボランティアカードをつくらないとは入れないのか?」
と勘違いをする人が時々いるのは困るのだが、ボランティアがある程度「ここは自分たちの場所なんだ」という縄張り意識を持ってもらわないと、施設が維持できないのも事実だ。誰もが利用できるプチテラスとしての機能を維持しつつ、管理体制を保っていく上で、ネームカードは大変活躍している。
○取材・調査・訪問を受け入れる広報戦略
エコプチには月に1・2度ほど、訪問や調査などに訪れる人がいる。はじめは「なにがめずらしくて自分たちのところに来るのだろう」と不思議がるボランティアが多く、活動の意義を自身がなかなか理解していなかった。しかし、遠方から人が訪ねてくれるのはうれしく、自分たちが作った野菜やビオトープなどを紹介することがボランティアの楽しみになっている。また、新聞・雑誌・テレビなどにもときどき取り上げられるので、ボランティアたちはコピーをして知人に配ったりしている。自分たちの活動が注目されていることで、自覚と誇りが生まれ、活動のモチベーションにつながっている。外部から注目されるための広報戦略については、また改めて書くこととしたい。
○やりたいことがなんでもできる
「テーブルをつくりたい」「ハーブ園を作りたい」「こういう野菜を植えたい」「こういうイベントをしたい」
ボランティアからの様々な要望は、6つのルールにのっとって基本的に受け入れることにしている。
1、環境によいこと2、プチテラスの機能を維持すること3、自分で最後までやり遂げること4、ほかの人の意見も聞くこと5、予算の範囲内で行うこと6、人から喜ばれることであること
「やりたいことをやる」「得意分野で活動に貢献する」というルールは、ボランティアの潜在能力を開花させた。サッシ職人のJさんは、電線コードの廃材を利用して回転テーブルをつくり、園芸部のIさんはハーブ園をつくってハーブティの試飲会を定期的に行っている。絵が得意なJさんがエコプチの看板を描き、料理の得意な主婦の皆さんが、野菜の料理を振舞ってくれる。エコプチはボランティアが輝ける舞台になっている。自分の才能を活かして活動に貢献できることが、積極的な参画につながっている。
○やればやるほどおいしい
施設を常時利用しているボランティアは60名ほどだが、一生懸命やる人と、そうでない人はどうしてもでてきてしまう。そうすると一生懸命やる人はやらない人にたいして不満を持ち始める。ボランティアがボランティアを非難するようになると、その組織は排他的になり、活性化しなくなる。一生懸命なボランティアは不可欠だが、批判する体質を見過ごすわけにはいかない。ボランティア・マネジメントの難しいところだ。
一生懸命なボランティアには、1、とにかく話をじっくり聞き、2、この活動全体の意義を伝えてそれを支える側として1歩ステップを上げてもらい、3、ボランティアの「自発性=人を批判するのはボランティアでない」という意義を辛抱強く伝えるしかない。
しかし実際はボランティアがそのような視野をもつのはむずかしい。そこで、「やればやっただけおいしい」ような工夫をしている。新聞・雑誌記者が来たときには、がんばっている順に紹介したり、共同区画やあまった野菜やイベントのあとのジュースなどをあげたり、撮った写真を引き伸ばしてあげたり、という方法をとっている。「ボランティアとは無償の労働力」ではない。「お金以外のなにか」を求めてくる人であり、もっとも価値あることは「ありがとう」を形にすることだ。その点では、写真を引き伸ばしてあげるという方法は、パソコンが苦手な中高年ボランティアに受けがよく、本当に喜んでくれる。ホームページや機関紙でも、がんばっている人の写真を掲載するなどの工夫をしている。
○活動の拠点―回転テーブル
エコプチには直径1.5メートルの回転テーブルがある。屋根があり雨もしのげるようになっている。これがボランティア活動を活発にしている最大の秘訣だ。草むしりや掃除などの作業はしんどい。けれども作業が終わったあと、お茶を飲みながらの談笑が楽しい。いつでも誰かがいて話ができる。だからいつもやってくる。回転テーブルがボランティアの居場所になっていて、ここで情報交換やアイディアを出し合ったりしている、まさに活動の拠点である。
このように、試行錯誤しながらもグリーンプロジェクトの活動はボランティアが活発に活動できる仕組みづくりに知恵を絞っている。
いまのところ、ボランティアたちは、エコプチテラスを我が家のように愛し、喜んで活動している。朝は5時前から夜は7時まで、いつも誰かが来て談笑している。彼らはふつうのおじさんおばさんばかりだが、組織としてはおそろしいほどの力を発揮する。ボランティアという「人材=財産」の能力を最大限に引き出すことに、いまのところは成功しているように思う。
これから高齢化社会が進むなかで、50〜70代の人材をどうやって確保していくかは、NPOの大きな課題だ。環境問題の実践活動について言えば、経験もあり、協調性もあり、体力もあり、好奇心もある中高年は、エコボランティアとして最も優秀な人材であり、人材には困らないような気がする。ただ、ボランティアを束ね、モチベーションを与え続けるボランティア・マネジメントのできる人材が不足しており、育成は急務の課題だ。
人生の大先輩にどつきまわされながら、エコプチのボランティア・マネジメントは試行錯誤の日々を送っている。


日時 2004-8-26 22:57:46
環境コラム: GP流NPOマネジメント
この記事が掲載されているURL: http://www.greenproject.net/modules/wfsection/article.php?articleid=46