環境問題と戦争 その3


八木澤秀記 高千穂大学 理学博士
物理学から見るエネルギー問題・環境問題について研究している。自宅の軽井沢では農業を営み、自然との調和したライフスタイルの実践をしている

砂嵐が吹き荒れるイラクの沙漠からは「文明の発祥地」というイメージは浮かばない。しかし、その沙漠には湿地帯特有の植物の花粉の化石が豊富に存在する。そう、メソポタミア文明は豊かな湿地に恵まれていたことを物語る。 水の無い沙漠に文明が発祥するはずもないから当然であろう。 
文明とは良い響きを持つが、エントロピー増大法則からすれば周囲の物質、エネルギーを収奪して環境劣化を促進する事に他ならない。だから、「文明の跡地は沙漠」となり、エジプト文明、インダス文明、黄河文明の衰退も頷ける。奢る平家久からず。文明とは環境破壊のあだ花と見ることができる。
一面の沙漠だけでは人は住めない。イラクには未だ湿地は残っている。米英侵略軍が橋を渡るとか確保するとか言いう報道からも判るように、イラクには未だ湿地は残っていることを忘れてはいけない。
10余年前の湾岸戦争ではその湿地が戦場となり、そこで漁業を営んでいた住民が逃げ出した。水深3メートルもあった漁場は今では哀れ、所々に水溜りを残す沼地と化してしまった(ABCドキュメント、今年3月放映)。 
アフガニスタンの米侵略戦争の環境破壊は問題にされていないのは意図的か。20年前にアフガニスタンを訪れた人はその美しい土地に感嘆したと言う。カンダハル、マジャリシャリフといった美しい響きを持つ地名は緑に囲まれた清潔な都市を連想させる。アレキサンダー大王の墓、マホメットの親族の墓もその辺だったと思う。 
昨年のTIME誌によると、アメリカの攻撃でタリバン政権が崩壊した結果、農地が壊滅し急速に沙漠化したという。少ない水を大切に管理して作物を育てていた住民は、タリバンの統制が無くなって勝手気ままに振舞う武装集団に水を奪われた。
その武装集団は換金植物としてケシを栽培するのだが、ケシは大量の水を必要とするために農地は完全に干上がった。その沙漠化は想像を遥かに越える速さで進行したという。住民は砂嵐で家の中にいても口を開けて食べられない程だった。 
朝起きたら砂で家が埋まっていて、近所の人が掘り起こして助けたという。
イラクの残り少ない湿地が最終的な崩壊を免れるか。
戦争の環境破壊は最大効率で進行する。
アメリカはずば抜けた環境テロリストだ。


日時 2003-4-23 6:52:39
環境コラム: エントロピーで見る環境問題
この記事が掲載されているURL: http://www.greenproject.net/modules/wfsection/article.php?articleid=35