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 GP流NPOマネジメント : VOL9.リスクを管理する
投稿者 river-rat 投稿日時 2004-10-19 14:51:43 (1892 ヒット)        印刷用ページ

ヒロ ヒラタ
エコプチテラス管理人。最近はボランティアが自立してやることがなく、もっぱら回転テーブルでお茶を飲んでいる。エコプチが縁で飼われたモカは、主人より餌をくれるスタッフになついている。
▽個人サイト:森の語り部たち

活動をおびやかす様々なリスク

 「作業中に熱中症で倒れた」
 「ホームページで個人情報が許可なく流されたと抗議された」
 「うるさいと近所からクレームの電話が入った」
 「ボランティア同士でいざこざが起こり、組織の人間関係がギクシャクした」
 「お金が盗まれた」
 活動をしていく中では、様々な問題が起こる。「人あるところにトラブルあり」といった具合に、大小さまざまのいざこざは人間関係の常である。しかし問題の大きさによっては、組織の人・モノ・金・情報・信用といった有形・無形の財産が失われ、存続が脅かされる大きな損失になることもありえる。
 組織が生まれたばかりのころは、やる気を前面に出してがむしゃらに動いてきた。はじめから何もないのだから、当然失うものもなかった。しかしがむしゃらに動いた結果、経験をつみ、様々な人とのネットワークができ、事業がある程度形になってくると、今度はその事業を安定的に維持していくための、これまでとは質の違った運営が必要になってくる。そのひとつがリスク対策である。
 リスクとは
 「組織に損失をもたらすかもしれない不確実な要素」
と定義することができる。
 リスクはすべての市民活動に存在するものであり、社会の課題を解決するために活動を行っている以上、リスクを無くすことはできない。市民活動とは「リスクの塊」であるとも言えるかもしれない。
 「リスクをなくす最善の方法は何もしないこと。リスクなんてへっちゃらさ」
と開き直るのも一つの手かもしれないが、しかしだからと言ってリスクを放置してよいと言うわけではない。組織の目標に少しでも近づけるために、また組織としての責任を果たすためにも、将来起こるかもしれない問題を洗い出し、対応の準備をすることで、リスクをある程度管理することができる。
 「リスクを管理すること=リスクマネジメント」という視点を持つことにより、突然組織に降りかかるかもしれない損失を最小限に食い止める必要がある。

転ばぬ先の杖-リスクを洗い出す

 「リスクマネジメントなんて難しい横文字でいわれても」
という人もいるかもしれないが、それほど難しいことではない。組織の中心になっているスタッフが集まって
「もしこんな悪いことが起こったらどうしよう」
と、想定できる事故や過去の問題を洗い出し、対応をあらかじめ決めておくだけでもいい。
 大切なのは、自分たちの活動においてどんなリスクがあるのかを「未然に知っておく」ことだ。あらかじめ「こういうことが起こりそうだ」と予測できていれば準備もできるし、いざ起こったときにあわてないで済む。「転ばぬ先の杖」として先手で手を打つことが大事だ。またNPOの財産を「人」「モノ」「金」「社会的信用」に分け、それぞれのリスク要因をリストとして洗い出しスタッフ間で共有することも大切だ。

GPのリスクマネジメント

○ ビオトープの柵
 エコプチで最初に行われたリスクマネジメントは「ビオトープの柵」だった。
 生き物が集まる場所として作られたビオトープは、水深が20センチほどで、足を滑らせやすい傾斜になっている。いつも立ち寄ってくれるおまわりさんが
「小さい子供が落っこちることもあるんじゃない?」
とアドバイスをくれた。確かに10センチの深さがあれば、事故は十分にあると考えられる。可能性はとても低いが、万が一にもそんな事故が起こってしまっては大変だ。そこで、ひざ上程度の柵をつくる同時に、入り口に利用における注意事項を書いた紙を張り出した。決して大げさなことではないけれど、「万が一」の状況を想定しておくと言う意味で、スタッフ間の意思疎通を図る良い教訓となっている。
○ ボランティア保険と熱中症対策
 活動中最も心配されるのは、農作業中の怪我や熱中症などだ。実際に昨年は熱中症により救急車で搬送されたボランティアがいた。熱中症は命に関わるような場合もあり、高齢者が多い私たちの組織では特に注意を払っている。
 「濡れたタオルを首に巻くこと」「水分補給をこまめに取ること」「日中の作業は無理をしないこと」
などの注意を呼びかけると同時に麦茶や漬物を用意して水分・塩分補給をすすめている。
 また、農具での怪我や事故なども想定されることから救急箱を用意すると同時に、エコ農園利用者は「ボランティア保険」に加入してもらっている。農具の置く場所や置き方なども、事あるごとに注意を呼びかけている。ただ、最近エコプチに遊びに来る子供たちが増えたため、現在の保険のあり方では対応ができなくなっており、民間のNPO総合保険に加入するなど、より広範囲がカバーできる保険の加入を現在検討している。
○ 近隣対策
 一般の区民農園では、近所からのクレームが多いという。路上駐車によるトラブルや、においの強い肥料を撒いたり、朝早くから騒いだりといった苦情が、役所に数多く寄せられるそうだ。区民農園は、区民全般への公平性を重視するあまり、近くに住んでいる人が利用できず、結果的に近隣住民との軋轢(あつれき)を生んでしまっている。エコプチでそういったクレームが多発するようでは、施設を維持・管理することはできない。
 そこで区民農園の事例を参考に対策を講じた。施設をつくる時点で、エコプチ周辺の住民のみなさんに声をかけ、エコ農園を積極的に借りてもらうことにした。自分が利用していれば少しくらいのことには目をつぶってくれるだろうし、気にかけてくれるようにもなる。また車3台が置けるスペースの設置や、においの強い堆肥の禁止、活動時間の制限などのルールを設けるなど、近隣への配慮を徹底している。
 施設が開設して2年が経つが、朝早くにうるさいという指摘が1件あったのみで、リスクマネジメントは今のところ成功していると言える。
○ スタッフ会議
 スタッフ間の情報交換を密に行うため会議は頻繁に開いている。会議といってもエコプチのテーブルにスタッフが集まったときにお茶を飲みながらコミュニケーションをとることがほとんどであるが、スタッフのまめな「報・連・想」のお陰で問題を未然に対処できることが多い。
○ お金
 使い込むようなことはないのだが、落としたり盗まれたりということは当然考えられるし、そうなった時にすべての責任を会計に負わせるわけにもいかない。そこで支払いのルールやお金をなくしたときの対応など、お金についてのルールを細かく決め、文書化して役員に配布している。お金のトラブルは一番もめるのでできるだけ避けたいし、説明責任を果たしていくためにも、トラブルをあらかじめ想定した対応を行っている。
○ 情報開示
 私たちは「自分たちの持つ情報をできるだけ公開すること」が社会的信用を損なわないためのリスクマネジメントであると考えている。市民活動や環境問題が隅々まで浸透しているとは言えない現状では、様々な憶測や誤解が生じるのは避けられない。であるならば、逆に憶測や誤解が生じても、それが本当かどうか確かめられるように「持っている情報はできるだけ公開してしまおう」という逆転の発想にいたった。個人情報などは別として、ホームページなどを使ってなるべく情報開示とするように努めている。

 以上のようなことをあらかじめ想定し、対応の方法を決めるなどのリスクマネジメントとしている。
 ただ、問題と言うのはたいてい「想定していないこと」が起こるのが常で、しかもある日突然やってくるものだ。それをさばけるかどうかは「その時になってみないとわからない」というのが現実だろう。しかしだからこそ、リスクマネジメントを行っておく必要性を強調したい。
 なぜなら「リスクマネジメントは応用が利く」からだ。
 もし起こった事態が想定外のことであったとしても、対応策があればそれを応用して臨機応変に動くことはできる。少なくともトラブルを前に「オロオロとするしかない」という事態は避けられる。
 「備えあれば憂いなし」
 それをあえて強調するわけは、私自身現場で幾度となく「オロオロ」した苦い経験があるからだ。これはほかならぬ自分自身への戒めである。


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